イメージの実現へ
家を作ることは、人生の内でも最も大きな出来事のひとつ、といっても良いと思います。
そして家を作った後は、家と対話して行く生活が待っているといえるのではないでしょうか。
家は人を作るとはいい古された言葉ですが、それゆえにこそ、日常での楽しく、充実した対話のできるしっかりとした、家が求められているのだと思います。
そんな世界に一つしかない家を作るためのパートナーとして、幸せな出合いのあることを祈っています。
家づくり、住まいづくりに関して 建築設計事務所とは「いったいどんな仕事をするところなのだろう」と思われる方が多いかもしれません。
一般的には建物の設計をするわけですが、具体的に言いますと依頼者(建築主)の意向にそって設計図を作ることが最も重要な仕事になります。
次に工事金額の調整の仕事、見積のチェックでしょうか。そして建物が竣工するまで、工事期間中の監理があります。また建築関連法規への適合性といった面も実務として無視できません。
以下に住宅の設計を例として大まかな手順についてまとめてみました。参考にしていただけるとありがたいです。
設計を委託する側と引き受ける側との具体的な約束事項をまとめたものが「設計監理委託契約書」です。
ある程度これでいこうという共通の思いが共有できた時、できるだけ早く契約書を取り交わしたいものです。
木造と鉄骨造の得失を教えてください
・木造のメリット、デメリット(構造、コスト、メンテナンス他さまざまな観点)
・鉄骨造のメリット、デメリット(同上)
・木造、鉄骨の一般的な坪単価(比率でもOK)
・木造における上下階の音対策、鉄骨造での上下階の音対策
A.木造と鉄骨造、建築構法の特徴
1.材料
ご存知のように木造と鉄骨造の大きな相違は、構造材(骨組み)の材料の相違にあります。
木材である樹木は、普通には何十年かかかって山の中で成長し、建物の構造として利用できるようになるもので、その歴史は年輪を見ると分かります。従って生き物であるが故に、節などもあり一つとして同じものはないといって良く、呼吸しており製材してからも水分を吸ったり吐いたりして常に一定の状態にはないのです。
鉄骨材である鉄は鉱物であり、無機質なもので精錬によって純度を高めるとともにその成分構成である炭素の含有量によって強度などの性質が異なります。工業生産によるものでその成分はほぼ一定しており安心して使用できます。木造と同様温度差による伸縮はあります。
2.強度
木と鉄の素材の性質という面から見れば、鉄骨の方がはるかに強いといえます。5トン程度のものを支えるのに鉄では2cm角程度の断面のもので足りるのに対して木材では8cm角程度のものが必要(圧縮材)というデータもあります。
しかしながらこれは建物の強さには直結していません。同じ地震に対して鉄骨建物が壊れて木造建物が壊れないということはあり得ます。
いわばここにこそ設計の価値があると思われますが、一般的にいわせていただくと木造の場合、寺院などの歴史的建造物を除いて、在来の工法では仕口、継ぎ手の加工精度が鉄骨に比較して高くなくしっかりとした接合が不可能なため、鉄骨造に匹敵する強度を得ることできにくいので、鉄骨造の方が性能面で余力があるかと思われます。
3.耐火性
木材は可燃性の材料であり、細い柱などを使用した場合燃え尽きてしまって、火災時に崩落の危険があります。
条件として簡易耐火など防火指定のなされた区域では、石膏ボードなどにより壁や柱を被覆をすることによって耐火性能をあげることができます。また露出する柱、梁などについては断面に余裕をみてひとまわり大きな部材を使用し、燃え残り効果を期待することで耐火基準に適合させることになります。
鉄は金属なので火に強いのではないかと思われますが、火災時には強度の低下(30%程度)が生じますので、決して安心できる材料ではなく、一般的には耐火被覆によって強度低下を防ぐことになります。
ただし木造も鉄骨造も防火指定のなされていない区域ではそれほど厳密に考えなくても良いかもしれません。
4.対腐食性
法定耐用年限について、鉄骨造45年、木造30年とされていますように、構造材の耐久性は木造の方が分が悪いのですが、建物の設計、施工の質によって大きく異なり、一概に断定はできないと思います。
木造の場合雨漏りによる腐朽が大きな問題です。雨仕舞の悪い箇所を作りますと防腐剤などによる対策をとらない場合、約5年程度で材料強度が全くなくなるのではないでしょうか。
鉄骨の場合も錆び、酸による腐食などが考えられます。この場合の対策としては種々の防錆塗装によるものが一般的ですが、最近ではより耐久性のある溶融亜鉛メッキによる表面処理(ガルバー化)もとられています。
5.遮音性(上下階の音対策)
一般的に単位体積重量もあり緻密な材料が遮音性の高い材料といわれており、コンクリートやALC版などが比較的性能が高いと考えられます。
鉄骨造の場合、仮にデッキプレート下地、軽量コンクリートまたはALC版100mmの2階床とし、一方で木造床、天井両面合板12mm、内部中空とした場合、コンクリート、ALC版100mmのおよそ半分程度の性能というデータもあります。このため木造の方が遮音上不利なのは明らかです。
この場合木造の対策としては、天井材をフレキシブル・ボードや石膏ボードなど合板と併用し、二重にするなどの工夫が考えられます。
鉄骨の場合の特殊な点として、コンクリートや木材と比較して材料自身の持つ弾性の範囲が大きいことです。そのため振動が伝わりやすく、強度上問題ないのですが、ダワダワとした揺れが身体に感じやすいのは否めません。
6.居住性その他
居住性を部屋の快適性と考えますと、断熱性や気密性など一概にはいえない部分がありますので、木造と鉄骨造の違いという点に絞って考えますと、鉄骨造の場合、柱間を大きく取ることができるということに尽きると思います。スパンが大きいということは窓などの開口部が自由にデザインできますし大きな開口部も作ることが可能です。この点木造の場合どうしても開口部の作り方に制約を受けることになり鉄骨造の方が居住性としては性能が高いということになるのかもしれません。
一方、木材という有機物質は、光合成を行う植物であり生命体でもあるということから、人の心を癒してくれたり、経年変化によって深い味わいを与えてくれます。手入れさえ良ければ、再生された近世の古民家の如く、ますます年を経て輝きを発し、持続可能性のあるエコロジー的な材料といって良いと思います。
このように考えると木造と鉄骨造はかなり次元の違う長所と短所を持っているものと思われ、いずれにしても敷地の都市性や建設場所の特徴、建設費用、住まい手の家族環境や人生観、などの種々の要因を勘案して施主が決めるものではないでしょうか。
B.建設費用(一般的な住宅坪単価)
1.木造・・・坪単価 50〜150万円
2.鉄骨造・・坪単価 100〜150万円
3.鉄筋コンクリート造・・坪単価 120〜200万円
以上の数値は私見であり、おおよその目安ですので、設計の仕様、建設場所、市況など経済状況の変化に影響を受けるものです。
C.今回提案の構造について
構法として木造を採用したのは、主に予算面での理由によるものです。
本来この提案のイメージは鉄骨造に相応しいのですが、木造には人に与える奥深い、柔らかさと言ったものがあり、あえて木造の持つ良さを生かしながら、なお従来のイメージを打ち破りたいとの意図も含んでいます。
一般的にいえば、木造よりも鉄骨造の方が強度や耐久性能などの余力がありますので、鉄骨造をお勧め致します。
今回の提案に則して申しますと、1階を鉄骨造(2階床をデッキプレート、コンクリート下地木製フローリング)、2,3階を木造としてお考えになるのも予算面から一考の価値があります。
この提案に盛り込まれたものは、鉄骨造でも、鉄筋コンクリート造でも十分実現できますし、設計の対応も当然可能です。
D.設計監理の業務について
住まいを手に入れようとするとき、計画を実現するために、最も重要なものは指図書きである設計図です。「たのむよー。」「できたでー。」の二言ですむのであれば理想ですがなかなかそうも行かないのではないでしょうか。
今日の複雑な社会では設計図なしでは、特別なものであるほど、自分の意図を正確に人に伝えることは不可能だと思います。そして予算どうり、図面どうりにできるかどうか、ちゃんと見守る必要もあります。
ご存知のように、このような業務を行うことのできる人が設計(監理)者なのであると思われますし、最も時間のかかるのが、計算も含め設計図の作成です。施主は一般的にいって、設計者とこのような業務委託を契約書を取り交わすことによって行う必要があります。
なお契約書の細目内容につきましては、ここでは省略させていただきます。
家づくりに当たっての重要な点は、施主、設計者、施工者の三者の思いやりと信頼関係だと思います。設計者がプロデューサーかどうか、そのようなケースもあると思いますが、プロジェクトの成否は、三者がイメージを共有することができ、一心同体となって取り組めるかどうかにかかっているともいえるのではないでしょうか。
建築設計者としてのスタンス
【Q1】
建築家としての原点、建築家を志したきっかけをお教えいただけますか?
子供の頃、地面にチョークで機関車の絵を描くと、実際に本物の機関車になって走り出すという漫画を見て、そうなったらいいなという夢を膨らませていましたね。イメージが現実になるというか。その後高校生くらいになって日本初の超高層である霞ヶ関ビルができました。技術の進歩に感動するとともに、何か、ものつくりに子供の頃から興味があったみたいです。
【Q2】
建築家として、どのような住宅を作りたいとお考えですか?
また、住宅づくりの魅力はどこにあると感じられていますでしょうか?
昨今は地球温暖化や環境の悪化などで、省エネルギー型の住宅が求められているように思います。化石燃料に依存しない自給自足型というか、自然環境を最大限有効利用することのできるような仕組みを持った住宅でしょうか。
家作りは人作りというか、技術もどんどん進歩していますし、永遠に未完成であるというつきない魅力を持っていると思います。
【Q3】
施主の要望を住宅にどこまで、どのように反映されようと考えていらっしゃいますか?
普段の話し合いが重要です。特に打ち合わせをできるだけ多く重ねて、設計者と施主の考えが同じになるように持っていくことが大切ではないでしょうか。イメージを共有することで取り組み方に弾みがつきます。
【Q4】
ご自身にとって印象深い作品と、そのコンセプトやエピソードをお教えください。
最近のA邸では時間もかかりましたが、木造の架構と内部のインテリアが柔らかくミックスしていい雰囲気になっていると思います。サステナブル、いってみれば持続可能で生命維持的な田園都市型住宅のコンセプトを秘めています。
F邸では、いまでは古くさく見えますが差し鴨居構造の農家住宅を再生したものです。古くなったからといってすぐに取り壊してしまうのではなく、手を入れていけば新築にはない味がありますし、床暖房などを併用してとても住み心地よく仕上がっていると思います。
【Q5】
影響を受けた建築家はいらっしゃいますか?また、感銘を受けた建築物はございますか?
やはり近代建築の4大巨匠、といわれている、ル・コルビュジェ、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファンデル・ローエ、アルヴァ・アアルト、があげられます。日本では奈良時代の法隆寺とその頃の匠(たくみ)による建築、また桂離宮など、小堀遠州の時代の建築と庭園などが頭に浮かびます。どれか一つに絞ることはできません。
【Q6】
海外と同じく、日本でも既存住宅の再利用・有効活用が盛んになりつつあり、リノベーションやリモデルが注目を浴びていますが、どのようなお考えをお持ちでしょうか?
省エネルギーを突き詰めていくと、構造体をしっかり作っておいて、再利用していくという考え方になると思います。上下水道の配管がちゃんとしていて、断熱材が施され、夏冬を快適に過ごせれば何の問題もないと思います。人生のライフステージの各段階で少しずつ模様替えをしていくという考えで十分ではないでしょうか。ただし既存の戸だて住宅の場合、改正後の建築基準法への適合性が求められていることには留意しなければなりません。
【Q7】
東日本大震災を受けて、住宅・建築に対する捉え方も変化すると思われますが、今後、建築家として社会にどのように関わっていこうとお考えですか?
社会に対して、積極的にビジョンを示せるというか、将来の明るいイメージを提供してあげられる、そんな住まいや環境作りのパートナーが理想的に思われます。
エアコンなしで快適に住める家
(テーマに関連した設計者のメモとして)
冬の採光と夏の通風をどう工夫すれば快適に住めるのだろうか。
特に以下の場合が難しそうです。
・冬の曇り空の場合はどうなるのか
関東地方の場合、冬場は季節風、いわゆる「赤城おろし」に代表されるように乾燥した晴天が続きますので日照が利用できますが、時として曇天に見舞われたときはどうしても暖房がないと快適ではありません。日本海側の豪雪地帯の人たちの苦労が偲ばれます。昔の人は室内でたき火をしたり、火鉢に炭をおこして灰に埋めておくというような工夫をしていたと思われます。現在では暖房熱源として薪、炭等に加えて電気、ガス、灯油、太陽光等が利用されています。このような暖房設備には種々の選択肢(OMソーラーや、蓄熱暖房を含めて) がありますので、費用対効果を考え、よりよい選択をすることが大切ではないかと思います。当然ワンポイントとしての利用も考えられます。同時に昼間の日照を有効利用すると共に、床、壁の蓄熱性能を向上させたり、断熱、気密を高くし、省エネルギーの家にしておくことも重要ではないかと思われます。
・夏に風が無い場合はどうなるのか
夏の気象条件として見逃せないのは、海風陸風のことでしょう。よくいわれるように昼間、日照にさらされた内陸は海側に比べて、温度が上がり高気圧になるため上昇し、海側からの風が吹き込まれます。夜間はその逆方向に風が吹きますのでこの風は微風といえますが、絶対に利用するべきでしょう。特に気流方向に対応した平面、断面の空間構成は、ないがしろに出来ません。では凪のときにどうするか、このような時には扇風機がどうしても必要ではないかと思われます。特に天井扇は夏冬を問わず、活用できると思います。
・梅雨の時期はどうなるのか
最近は素材に有機的な材料を使用することが見直されてきています。この理由の一つとして、材料に調湿機能があることがあげられます。人間の生活をやさしく包んでくれる第二の衣服ともいえる役割を満たしているためと考えています。木材を始めとして和紙、布、珪藻土やしっくい等は代表的なものです。これらの仕上材料は、アレルギーを引き起こす可能性も低く、健康的な素材だと思います。梅雨時にはこのような素材の持つ湿度調整の役割を有効に活用すべきではと考えています。
何れの方法も完全無欠なものだとは思いません。アルミサッシの断熱性など、性能向上も著しいです。私見ですがエアコンなしで快適に過ごすために、住宅の空間構成を考えると同時に、材料や素材の適性をよく捉え、住まいとして有機的に調和させていくところに設計の要点があるのではないでしょうか。