木造と鉄骨造の得失を教えてください
・木造のメリット、デメリット(構造、コスト、メンテナンス他さまざまな観点)
・鉄骨造のメリット、デメリット(同上)
・木造、鉄骨の一般的な坪単価(比率でもOK)
・木造における上下階の音対策、鉄骨造での上下階の音対策
A.木造と鉄骨造、建築構法の特徴
1.材料
ご存知のように木造と鉄骨造の大きな相違は、構造材(骨組み)の材料の相違にあります。
木材である樹木は、普通には何十年かかかって山の中で成長し、建物の構造として利用できるようになるもので、その歴史は年輪を見ると分かります。従って生き物であるが故に、節などもあり一つとして同じものはないといって良く、呼吸しており製材してからも水分を吸ったり吐いたりして常に一定の状態にはないのです。
鉄骨材である鉄は鉱物であり、無機質なもので精錬によって純度を高めるとともにその成分構成である炭素の含有量によって強度などの性質が異なります。工業生産によるものでその成分はほぼ一定しており安心して使用できます。木造と同様温度差による伸縮はあります。
2.強度
木と鉄の素材の性質という面から見れば、鉄骨の方がはるかに強いといえます。5トン程度のものを支えるのに鉄では2cm角程度の断面のもので足りるのに対して木材では8cm角程度のものが必要(圧縮材)というデータもあります。
しかしながらこれは建物の強さには直結していません。同じ地震に対して鉄骨建物が壊れて木造建物が壊れないということはあり得ます。
いわばここにこそ設計の価値があると思われますが、一般的にいわせていただくと木造の場合、寺院などの歴史的建造物を除いて、在来の工法では仕口、継ぎ手の加工精度が鉄骨に比較して高くなくしっかりとした接合が不可能なため、鉄骨造に匹敵する強度を得ることできにくいので、鉄骨造の方が性能面で余力があるかと思われます。
3.耐火性
木材は可燃性の材料であり、細い柱などを使用した場合燃え尽きてしまって、火災時に崩落の危険があります。
条件として簡易耐火など防火指定のなされた区域では、石膏ボードなどにより壁や柱を被覆をすることによって耐火性能をあげることができます。また露出する柱、梁などについては断面に余裕をみてひとまわり大きな部材を使用し、燃え残り効果を期待することで耐火基準に適合させることになります。
鉄は金属なので火に強いのではないかと思われますが、火災時には強度の低下(30%程度)が生じますので、決して安心できる材料ではなく、一般的には耐火被覆によって強度低下を防ぐことになります。
ただし木造も鉄骨造も防火指定のなされていない区域ではそれほど厳密に考えなくても良いかもしれません。
4.対腐食性
法定耐用年限について、鉄骨造45年、木造30年とされていますように、構造材の耐久性は木造の方が分が悪いのですが、建物の設計、施工の質によって大きく異なり、一概に断定はできないと思います。
木造の場合雨漏りによる腐朽が大きな問題です。雨仕舞の悪い箇所を作りますと防腐剤などによる対策をとらない場合、約5年程度で材料強度が全くなくなるのではないでしょうか。
鉄骨の場合も錆び、酸による腐食などが考えられます。この場合の対策としては種々の防錆塗装によるものが一般的ですが、最近ではより耐久性のある溶融亜鉛メッキによる表面処理(ガルバー化)もとられています。
5.遮音性(上下階の音対策)
一般的に単位体積重量もあり緻密な材料が遮音性の高い材料といわれており、コンクリートやALC版などが比較的性能が高いと考えられます。
鉄骨造の場合、仮にデッキプレート下地、軽量コンクリートまたはALC版100mmの2階床とし、一方で木造床、天井両面合板12mm、内部中空とした場合、コンクリート、ALC版100mmのおよそ半分程度の性能というデータもあります。このため木造の方が遮音上不利なのは明らかです。
この場合木造の対策としては、天井材をフレキシブル・ボードや石膏ボードなど合板と併用し、二重にするなどの工夫が考えられます。
鉄骨の場合の特殊な点として、コンクリートや木材と比較して材料自身の持つ弾性の範囲が大きいことです。そのため振動が伝わりやすく、強度上問題ないのですが、ダワダワとした揺れが身体に感じやすいのは否めません。
6.居住性その他
居住性を部屋の快適性と考えますと、断熱性や気密性など一概にはいえない部分がありますので、木造と鉄骨造の違いという点に絞って考えますと、鉄骨造の場合、柱間を大きく取ることができるということに尽きると思います。スパンが大きいということは窓などの開口部が自由にデザインできますし大きな開口部も作ることが可能です。この点木造の場合どうしても開口部の作り方に制約を受けることになり鉄骨造の方が居住性としては性能が高いということになるのかもしれません。
一方、木材という有機物質は、光合成を行う植物であり生命体でもあるということから、人の心を癒してくれたり、経年変化によって深い味わいを与えてくれます。手入れさえ良ければ、再生された近世の古民家の如く、ますます年を経て輝きを発し、持続可能性のあるエコロジー的な材料といって良いと思います。
このように考えると木造と鉄骨造はかなり次元の違う長所と短所を持っているものと思われ、いずれにしても敷地の都市性や建設場所の特徴、建設費用、住まい手の家族環境や人生観、などの種々の要因を勘案して施主が決めるものではないでしょうか。
B.建設費用(一般的な住宅坪単価)
1.木造・・・坪単価 50〜80万円
2.鉄骨造・・坪単価 70〜100万円
3.鉄筋コンクリート造・・坪単価 90〜120万円
以上の数値は私見であり、おおよその目安ですので、設計の仕様、建設場所、市況など経済状況の変化に影響を受けるものです。
C.今回提案の構造について
構法として木造を採用したのは、主に予算面での理由によるものです。
本来この提案のイメージは鉄骨造に相応しいのですが、木造には人に与える奥深い、柔らかさと言ったものがあり、あえて木造の持つ良さを生かしながら、なお従来のイメージを打ち破りたいとの意図も含んでいます。
一般的にいえば、木造よりも鉄骨造の方が強度や耐久性能などの余力がありますので、鉄骨造をお勧め致します。
今回の提案に則して申しますと、1階を鉄骨造(2階床をデッキプレート、コンクリート下地木製フローリング)、2,3階を木造としてお考えになるのも予算面から一考の価値があります。
この提案に盛り込まれたものは、鉄骨造でも、鉄筋コンクリート造でも十分実現できますし、設計の対応も当然可能です。
D.設計監理の業務について
住まいを手に入れようとするとき、計画を実現するために、最も重要なものは指図書きである設計図です。「たのむよー。」「できたでー。」の二言ですむのであれば理想ですがなかなかそうも行かないのではないでしょうか。
今日の複雑な社会では設計図なしでは、特別なものであるほど、自分の意図を正確に人に伝えることは不可能だと思います。そして予算どうり、図面どうりにできるかどうか、ちゃんと見守る必要もあります。
ご存知のように、このような業務を行うことのできる人が設計(監理)者なのであると思われますし、最も時間のかかるのが、計算も含め設計図の作成です。施主は一般的にいって、設計者とこのような業務委託を契約書を取り交わすことによって行う必要があります。
なお契約書の細目内容につきましては、ここでは省略させていただきます。
家づくりに当たっての重要な点は、施主、設計者、施工者の三者の思いやりと信頼関係だと思います。設計者がプロデューサーかどうか、そのようなケースもあると思いますが、プロジェクトの成否は、三者がイメージを共有することができ、一心同体となって取り組めるかどうかにかかっているともいえるのではないでしょうか。